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みちのくの和歌、遥かなりみちのくの指導者、凛たり武将歌人、伊達政宗
 
文化財指定に向けた宮城県図書館長インタビュー
2007年7月7日


 
  
『禽譜』『観文禽譜』の学術的価値について(インタビュー)要旨
 私は、平成14年宮城県図書館長に就任したが、早々司書から貴重資料がどんどん痛んでいく状況についての説明を受けた。私はまず文化財の指定から進めようと考えた。このインタビューは、館長に就任したその月末に行ったものである。このようなインタビューを繰り返しながら、文化財指定のための調書を図書館において自ら作成していった。当時、県図書館の文化財は国指定1件12点であった。涙ぐましい積み重ねの結果、平成19年6月末現在の文化財の点数は、国・県7、800点を数える。図書館の総力を結集した成果だと自負している。以下がインタビューの要旨である。
1 日 時   平成14年4月26日(金曜日)15時〜17時
2 場 所   宮城県図書館応接室
3 出席者   元東京国立博物館主任技官  A  氏
        館  長          伊達宗弘
4 趣 旨
 A氏は、3月まで東京国立博物館に主任技官として勤務し、4月から仙台に在住しながら宮城教育大学や東京の大学の講師を務めている。国立博物館主任技官時代は、国立博物館所蔵の『禽譜』や国会図書館所蔵の『観文禽譜』などをはじめ全国の図譜の状況を正確に把握している第一人者であり、本県の『禽譜』についても十分熟知し、それらを踏まえた論文を多数発表していることから、本県の有する貴重な資料についてその価値をどう評価しているのか直接インタビューを試み、客観的な評価を得て県図書館が目指す文化財指定に向けての基礎資料を得ようとするため行ったものである。
 Qは伊達館長の質問、AはA氏の解答要旨である。
5 インタビュー内容
Q 今日はお忙しいところご足労願い感謝している。いま図書館では、他県からも含め貴重本の閲覧や出版申し込みが多く、保存とのかねあいもあり苦慮している。貴重本についてはデジタル化やマイクロフィルム化を図り、多くの人たちの活用に資するようにすべきであると考えており、必要な予算要求を考えているが、その第一段階として客観的な評価を得ながら、必要なものについては県、国の文化財の指定を受けていきたいと考えている。Aさんは、『禽譜』『観文禽譜』についても、数々のレポートを発表され、また国立博物館の『禽譜』についても熟知されている。国立博物館、宮城県図書館をつなぐ最適な人としてお招きした。
 まずお伺いしたいのは、本県の『禽譜』『観文禽譜』をご覧になっているか。
A 十分承知している。収録されている鳥の数、保存状況等は国立博物館の物より勝れている。国立博物館においては傷みが甚だしく何年かかかってやっと修復、整理した。それは私が担当した。
Q ズバリお伺いすると、国立博物館のが正か、あるいは宮城のが正か。
A どれが正か、副かではない。国立博物館のは最初の原本であると思う。すべてがバラ バラに台紙に張られ、説明がなされ逐次追加されている。宮城にあるのはその最終版を 同じ絵師など勝れた絵師が書き写した物である。数の多さ、統一性が図られている。『禽 譜』は堀田正敦が生涯をかけて加筆・訂正して作成した物であり最終的な完成品が宮城 の図書館の所蔵物である。宮城の『禽譜』は最終バージョンの原本そのものである。模 写した物はほかにもあるが、みなバラバラで統一性もなく、時代も異なる。その意味で 宮城の物は国立博物館と一体の物である。大変貴重な物である。東北大学言語文化部助教授の鈴木道男先生は、宮城のは国宝だと力説している気持ちは理解できる。
Q 宮城の『観文禽譜』についてはどうか。
A これは稿本(草稿本)であり、貴重な唯一の物であろう。当時仙台藩の第一級の学者だった桜田欽斎が執筆及び編集している。国立国会図書館など複数の館が模写した物は所有しているが、全然価値が違う。『観文禽譜』は、1794年(寛政6)序文が記され、一応の成立をみたものの、そのあと文化・文政期にわたって加筆修正が正敦自身によって行われている。その写本は、国会図書館などに複数存在するが、当館所蔵のものは他のどの写本に比しても内容に充実がみられ、明らかに最終的な編集段階を経て、更に校訂が加えられた「最終原本」と呼べるものである。また、記録によりこの、最終校訂の年代、経緯、校訂者を絞り込むことが可能で、そこには仙台藩の知能と正敦の深い思いとが一体となってこの大著を完成した事実が読みとれる。
Q ズバリお伺いして、国の重文指定の価値があるか。
A 国の重文の指定を目指すのは当然だ。それだけの価値がある。2〜3年前文化庁の歴史資料担当の0氏と話していたとき国立博物館のものを重文指定にせねばと話されていた。それほど価値のあるものである。国立博物館と宮城のを一対の物として指定するのか、個々に指定するのかの課題はあると思うが。 Q 『禽譜』『観文禽譜』については、確証を得ることができた。次に、当館には栗本丹洲の『魚虫譜』があるが。ご覧になっているか。
A 見ていない。『魚虫譜』もあるのか。すごいと思う。何巻あるのか。
Q 7巻ある。保存状況も大変良い。これは幸いまだみなに知られていないので、傷みはない。
A 7巻もあるのか。いろいろな場所に細分化された物がバラバラに保存されているが、宮城にはそっくり残っていたのですね。私は、堀田正敦が関与した総合的な図譜を研究してきたが、魚類図譜についてはバラバラにその写本は見ていたが、7巻も彩色自筆のものが存在しているのをはじめて確認した。たいへん嬉しい発見である。魚類図譜の原本となるものだろう。いずれのしても『禽譜』『観文禽譜』とセットで考えると良いと思う。大変貴重なものだ。
Q 何時か見ていただき、検証してもらいたい。ところで謡曲の本もあるのですが。
A 何時のですか。
Q 江戸時代初期の物です。
A まさか雲母本(きらら本)ではないでしょうね。
Q 雲母本です。
A わーすごい!大変価値のある物ですよ。何時か見せてください。ほかには。
Q 戸板保佑編『関算四伝書』など数学の関流和算書474冊がそっくり残っており、ほかにはないので全国の学者たちからも注目され高く評価されている。出版の話もある。
A それはすごい貴重な物ですね。やはり是非見せてもらわねば。宝の山ですね。
Q 図書館には貴重な物が数多くあるが、客観的な評価は受けていないので是非全体的にご覧をいただき、価値付けしたいと思うが、協力願えるか。
A 実は私は仙台生まれで、仙台市育ちで、特に宮城県図書館に対する思い入れが強いので是非協力させて欲しい。5〜6月頃まで忙しいがそれ以降は時間がとれると思うので、ボランティアで協力させてもらいたい。
Q 重文指定のテクニックはあるのか。
A 重文指定については、東北大の有賀先生が素晴らしいノウハウをおもちだ。
Q 有賀先生ですか。よく存じているのでそのうち遊びに行っていろいろ聞いてみたい。何か我々に対するアドバイスは。
A 国立博物館の『禽譜』は、長い間みなの閲覧に供したため傷みが激しくやっと修復したけれども、宮城のはよく保存されている。国の宝ともいえる物がたくさん残っている。長期的に守っていくため早急に是非デジタル化、マイクロフィルム化を図って原本を傷めないようにして欲しい。それがいま一番大切だと思う。
A 本日は大変お忙しいところ、ありがとうございました。自信を持って文化財指定に向け頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いします。
                             以 上